3つ目『小説好きなんだ』

5/8

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
 自分に話が来ないようにと質問し返した俺は、本当に卑怯だ。勢いが弱まっていく今岡さんを見て、ひしひしと痛感する。  そりゃそうだ。そこまで仲良くない奴に夢語るのは気が引ける。本当は話題を変えるのが“正解”なんだろう。  けれど、今岡さんらしくない弱気な様子や『無理って言われるのが怖い』って言葉に引っ掛ってしまった。 「言い辛かったら言わなくていいんだけれど…… やりたい事、聞いて良い?」 「わ、笑わない?」 「笑わないよ」  恐る恐る尋ねた彼女を勇気付けたいなんて、調子の良い事が俺の頭に過る。そのせいか、見えないだろうけれど精一杯の優しい笑みを浮かべてみせた。 「小説家…… 目指してるの……」  少し照れくさそうに言う彼女を見て、正直驚いた。  勿論、小説家を目指すのは難しい事だと思う。でも、そういう事じゃなくて、今岡さんならやってのけそうと勝手に思ってしまった分、何を怖気付いているのかわからなかった。 「いい夢じゃん」  ホロリと零れた言葉に急いで口を覆ったが、もう遅い。本気で悩んでるのに、そんな安い言葉でいい筈がない。  けれど、そんな考えを無視するように、栗色の瞳がユラリと動いたのが見えた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加