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俺の思い出の中では、彼女はいつも強気で、自分に自信があって、何でもやってのける、そんな人だった。ただそれは、他人に頼れない事の裏返しだったのかもしれない。
「なんかウジウジした話しになっちゃったね。ごめんごめん」
空元気で自虐を言う今岡さんは、やっぱりらしくないし、見たくない。だからと言って「そんな事ないよ」みたいなテンプレも言いたくない。
「読ましてよ」
「え?」
その言葉に、今岡さんは大きな瞳を瞬きさせた。しかし、そんな彼女以上に、内心俺が驚いていた。
なんせ、俺は国語が嫌いだ。小説なんて殆ど読まない。夏休みの読書感想文でも最後まで読めなくて、あらすじを丸写しした程だ。
でも、ここで引き下がる訳にはいかない。今岡さんには笑っていてほしいから。
「俺、小説好きなんだ。もしよかったら、読ませて」
3度目の嘘は、今までより覚悟を決めた嘘だった。ただのお節介かもしれない。何の役に立つかもわからない。それでも。
「で、でも、素人だし、さっきも言ったように、誤字凄いと思うよ?」
「そんなの、読んでみないとわからないじゃん」
『やってみないとわからない』なんて、他人の自分が言う言葉では無いだろう。
けれど、今岡さんには似合う言葉だ。それを証明するように、不安げだった彼女の瞳が、キラリと輝いた。
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