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「げ、原稿とか渡したら、読んでくれたりする……?」
「もちろん」
俺の返事を聞いて今岡さんは照れくさそうに微笑んだ。
その顔がどこか嬉しそうで、嘘の罪悪感は目の前まで届かない湯気のように消えていく。甘ったるい匂いだけを残して。
「じゃあ…… どうしよ。いつ渡そうか?」
その言葉に、自分が突拍子のない事を言ってしまったんだとようやく理解した。俺達は『いつ』に続く約束をしたのだ。初めましてと偶然の再開で終わりじゃない。
それがどこか嬉しくて口角が勝手に上がる。
「ら、来週、もし時間あるなら…… この時間、この場所で。どうかな?」
緊張で声が震えそうになる。大丈夫か? 変な日本語になってないか?
「いいよ。じゃあ来週の金曜日の……」
「今、16時半。同じぐらいで大丈夫?」
「うん。じゃあ16時半ね。宜しくお願いします」
この会話と、今岡さんの笑顔が凄くくすぐったくて、次ができた事が嬉しくて。このままずっとこんな時間が続けばと浮かれていたのかもしれない。
それはずっと『小説好きの青田君』を演じなければいけない事を忘れて。
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