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4つ目『無かったよ』
1週間後の午後3時50分。
俺はスターフロントの前で、今岡さんを待っていた。早すぎるのは自分でも重々分かってる。けど、居ても立っても居られる訳がない。
スマホで時間を潰そうとホーム画面をスクロールするが、寒さと緊張で妙に指が震え、思考も全然まとまらない。
困った事に、今日1日ずっとこの調子だ。
スマホの画面と周囲の景色を行ったり来たりしながら30分後、カツカツと杖で地面を叩く音が耳に入ってきた。それだけで来てくれた安堵と緊張とが入り混じる。
気が付けば俺の足が音のなる方へ吸い寄せられるみたいに動いていた。
「こんにちは。今岡さん」
そう声を掛けると、少しビクっとしながら白い杖が止まる。そして、視線が交わらないまま、杖の持ち主が口角をふわっと緩ませた。
「あ! こんにちは。待たせちゃったかな? 青田君」
「ううん。ちょうど来たとこ」
これはこの世の男性なら一度は言った事ある社交辞令だ。嘘とはまた違う。晴れて俺も紳士の仲間入りしたと思うと、少し照れ臭くなる。
そんな思いを密かに抱きながらスターフロントへ入ると、この前と同じホットチョコレートを2つ頼み、2人でテーブル席に座った。
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