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「今日も呼び出されなかった?」
今岡さんが茶目っ気がある笑顔で首を傾けると、肩に掛かっていた栗色の髪がさらりと揺れた。
「大丈夫。俺、優等生だから」
その姿に見とれながらもバレないようにとぼけた口調で返すと、彼女は「ホント?」と笑ってくれた。ちょっとは、マシな日本語が喋れるようになったみたいだ。
「そうそう。これ。途中なんだけど……」
そう言って、彼女はリュックから大きめの茶封筒を取り出した。
「お気に召すかわかりませんが……」
まるで何かの彰状のように両手で渡された封筒を、こちらも両手で丁寧に受け取る。
ノートぐらいの厚みから、前に言っていた自作の小説だとわかった。
「中、見ていい?」
「え!? 今はちょっと…… 恥ずかしい、かも…… いや、でも、感想は、欲しい…… です」
そう言いながら顔を手で覆う今岡さんがあまりにも可愛くて、こっちまでも顔が熱くなる。
「あ、そうだよね。えーと、じゃあ、持って帰ってもいい? じっくり読みたいし」
「あ、うん! 是非!」
うんうんと頷く彼女にホっとしながらも、焦りすぎている自分を反省しつつ、落ち着くためにホットチョコレートに口を付けた。やっぱり熱い。いろんな意味で。
「そういえば、小説って何のジャンルなの?」
ぎこちない空気を払拭したくて、熱さが残る口のまま彼女に聞いてみる。
しかし、やはり小説の事を言うのは恥ずかしいのか、今岡さんは気まずそうに口を開いた。
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