4つ目『無かったよ』

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「恋愛小説…… です。いや、ごめんね! やっぱりSFとかバトル系とかの方が興味あるよね?」 「いや、そんな事ないよ。読みたいって言ったの俺の方だし」  そう言いながら苦笑いを浮かべているのが自分でもわかった。  俺にとっては恋愛小説どころか、小説自体に疎い。読んだ後、上手く感想を言えるかどうか。  緊張した面持ちの彼女とは別の不安を抱きつつ、茶封筒をリュックへと閉まった。 「今までに誰かに見せたりとかした事ないの?」 「親に内緒でコンテストに応募したりは…… 恥ずかしながら引っ掛かった事も無いんだけど…… だからさ!」  急に声のボリュームを上げたのと同時に、今岡さんの顔も上がる。その姿は、まるで俺の目を見つめている様で、不覚にもドキッとしてしまった。 「何かおかしな所とかあったら、遠慮なく教えて欲しいの! この作品、絶対に書籍化したいから。お願いします」  彼女が頭を下げ、耳に掛かっていた栗色の髪がハラハラと滑り落ちる。その姿は“夢に向き合う”彼女を現していた。  自分に出来る一歩を探して、実践して、それで自信が無くなっても藻掻こうとまた一歩を踏み出している。前の話から、誰かに夢を打ち明ける事は相当勇気が必要だっただろう。そして、作品の感想をお願いする事も。 「本当、凄いよね……」 「え?」  キョトンとした表情で顔を上げた今岡さんに「何でもない」とにっこり笑う。  眩しいし、羨ましい。きっと、これから彼女と会って、作品を読む度に、自分のちっぽけさが身に染みるだろう。  俺も彼女みたいに何かを頑張れるだろうか。頑張れる何かに出会えるだろうか。  また、笑われないだろうか。  そんな気持ちに蓋をしたまま、話は学校の事や家族の事と、他愛のない話にすり替わっていき、気が付けば日が落ち始めていた。
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