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「恋愛小説…… です。いや、ごめんね! やっぱりSFとかバトル系とかの方が興味あるよね?」
「いや、そんな事ないよ。読みたいって言ったの俺の方だし」
そう言いながら苦笑いを浮かべているのが自分でもわかった。
俺にとっては恋愛小説どころか、小説自体に疎い。読んだ後、上手く感想を言えるかどうか。
緊張した面持ちの彼女とは別の不安を抱きつつ、茶封筒をリュックへと閉まった。
「今までに誰かに見せたりとかした事ないの?」
「親に内緒でコンテストに応募したりは…… 恥ずかしながら引っ掛かった事も無いんだけど…… だからさ!」
急に声のボリュームを上げたのと同時に、今岡さんの顔も上がる。その姿は、まるで俺の目を見つめている様で、不覚にもドキッとしてしまった。
「何かおかしな所とかあったら、遠慮なく教えて欲しいの! この作品、絶対に書籍化したいから。お願いします」
彼女が頭を下げ、耳に掛かっていた栗色の髪がハラハラと滑り落ちる。その姿は“夢に向き合う”彼女を現していた。
自分に出来る一歩を探して、実践して、それで自信が無くなっても藻掻こうとまた一歩を踏み出している。前の話から、誰かに夢を打ち明ける事は相当勇気が必要だっただろう。そして、作品の感想をお願いする事も。
「本当、凄いよね……」
「え?」
キョトンとした表情で顔を上げた今岡さんに「何でもない」とにっこり笑う。
眩しいし、羨ましい。きっと、これから彼女と会って、作品を読む度に、自分のちっぽけさが身に染みるだろう。
俺も彼女みたいに何かを頑張れるだろうか。頑張れる何かに出会えるだろうか。
また、笑われないだろうか。
そんな気持ちに蓋をしたまま、話は学校の事や家族の事と、他愛のない話にすり替わっていき、気が付けば日が落ち始めていた。
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