4つ目『無かったよ』

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「だから、これで進路を決めたいの。結果を出せば『目が見えない人間に小説なんて無理』って思う様な人でも納得してくれるでしょ?」  そこまで言った後、「まぁ、そこからデビュー出来たとしても上手く行くか分かんないけど」と作り笑いを浮かべた今岡さん。  その眉の下がった笑顔が、胸を締め付ける。  『今岡さんなら絶対大丈夫』って、小学生の頃から知ってるチビデブの俺なら、言えただろうか。つい最近知り合った俺より、まだ説得力あっただろうな。  こんな表情してほしくないから、頑張って感想考えたんだけど、国語の苦手な俺じゃ、彼女の自信には繋がらなかったみたいだ。そして、将来を簡単に考えすぐていた俺には、勇気付ける言葉も何も言えない。 「でさ、その…… おかしな点とか無かった? 誤字とか、わかりずらい場面とか……」  そう恐る恐る尋ねる彼女を前に、笑顔が引きつる。バレない様、静かに深呼吸した後、茶封筒をリュックから取り出した。 「……無かったよ」  ごめん。本当は相談するつもりだった。この原稿は自分で書き直した物だ。今岡さんから貰った物じゃない。  『勝手に直してごめん』って謝るつもりで、この原稿を用意したのに。笑い話で1回データ消した事も、1から書き直したってカッコ悪い話も。『俺に協力させて』って言葉も。  けれど、こんな不安そうな今岡さんを見て、これ以上自信を無くしてほしくなかった。たかが変換ミスかもしれない。それでも、今の彼女には『1人じゃ無理だ』と言っている様で、そうどこかで思っている自分を認めたくなかった。
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