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「いいな~。勇気与えられる人間にあたしもなりたいな~」
「え?」
覆ってた指の先から、チラリと前を見る。予想してたのは軽蔑してたり、引いている彼女だったけど、実際は、優しく微笑んでいる今岡さんの姿だった。
「だって、あたしは青田君から勇気貰ったからさ。その青田君に勇気与えた人でしょ? 絶対凄い人じゃん。なんだろ…… 青田君より糖度高いの?」
「と、糖度?」
一瞬ピンと来なくて頭を回す。いや、突っ込む所はそこじゃない。
勇気を貰った? 俺から? それに今岡さんは俺が言えなかった事を躊躇いも無くさらっと言いのけてる。
いや、今岡さんが凄いのは小学生の時から知っているけど。そんな凄い人に俺が勇気を与えたって。
「それに、夢に悩む気持ちはわかるよ」
その一言に、焦り浮かれていた思考がぴたりと止まった。彼女の優しい笑みは変わらないのに、目線が下に落ちているように思えたから。
「でも、今岡さんは小説家になりたいって……」
「そうなんだけどね。こう見えてもいっぱい諦めたんだよ? 他の夢」
ほろ苦い香りが漂う店内で、立て掛けられた白い杖と目線の合わない彼女の瞳がやけに目に付いた瞬間だった。
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