1つ目『ちょうど俺も行こうとしてたんです』

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「それは足立君が優しいからだよ」 「え? そ、そんな事……」 「そんな事ある。だって、絶対やり返したりしないし、誰もやらない係とか日直の仕事も代わりにやってたり。それに、なんか声が『足立 青空(そら)』って名前に似合うぐらい――」 『――ピピピピ! ピピピピ! ピピ』  いい所で鳴いてくれた目覚まし時計に、憎しみを込めてぶっ叩いてやると、仕事を終えたと言わんばかりのドヤ顔で現時刻を刺していた。6時30分。そんな事どうでもいいから夢の続きを返してほしい。  ヒンヤリとした空気は、布団から伸ばした腕に絡みつき、起きる気力を更に奪っていく。でも、また腕を布団に戻せば二度寝と遅刻は確定だろう。それに夢の続きに戻れる保証はない。  大きな伸びをした後、嫌々布団を蹴飛ばしてベッドから起き上がる。案の定冷え込んだ空気が2月の朝を突き付けてきた。  けど、あの時みたいな夏のむさ苦しい日より好きだ。  懐かしい夢を見たなと余韻に浸りながら洗面台へと向かう。『『足立 青空』って名前が似合うぐらい――』なんだっけ?  話しかけるみたいに洗面台の鏡を覗くと、そこにはチビでデブ“僕”なではなく、高校2年生の“俺”が映っていた。俺に聞いても覚えてないか。  当時の脂肪はカルシウムにでもなってくれたのか、体重は殆ど増えないまま身長が180㎝まで伸びた。埋もれてた鼻や目も、今ではしっかり主張している。相変わらず視力は悪いままだが、コンタクトに変えてから眼鏡が曇って笑われる事も無くなった。  きっと今の自分なら、今岡さんと話してもあんなに挙動不審にならないだろう。それに、今岡さんはきっと今も綺麗なんだろうな。  ただ、今岡さんとは中学が別々だったせいで、それっきり会っていない。  彼女が引っ越していない限り隣町に住んでいる筈だから、偶然ばったり感動的な運命の再会…… みたいな事、あっても良いと思うけど。現実はそう上手くいかないらしい。  後、清水と他2人も中学が別だったお陰で平和に暮らしている。そう言えば他2人、名前何だっけ?
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