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6つ目『綺麗な青空』
「じゃあ次、足立君。59ページの三行目、『太郎は』から読んで」
三時間目、国語の授業。担任の古藤先生が黒板から視線を僕に移す。それと同時に、クラスの皆も一斉に僕を向いた。
この一文だけは読みたくなかった。きっとベテラン感溢れるおばちゃん先生だから、そんな僕の気持ちも、皆がどんな表情をしてるのかも気にしてない。
音を立てぬ様静かに椅子を引き、教科書を持つ。その動作全てクラス中に監視されながら。
きっと一人ひとりは小さな興味でしかない。けれど、見られている側は60本の爪楊枝を突き付けられてる感覚だ。
「『た、太郎は』……」
「声が小さい。もう一回」
ぴしゃりと遮った声にクスクスと笑いが起きる。
じゃあ他当ててよ。何で苦手な物を皆と同じように出来なきゃいけないの? 何で皆と同じじゃなきゃいけないの?
「『太郎は…… 青空の様に晴れやかな心で――』」
クラス中から馬鹿にしたような笑いがわざとらしく僕の声を邪魔しだす。中には、口を手で覆ってる人も居た。隠す気なんて更々ないくせに。
ただ“自分の名前と同じ言葉が入っていただけ”ならこんなに笑わないだろう。
それが“チビでデブな僕”だから笑われているんだ。皆と違う体系の僕を笑える材料を欲しがっていただけ。
『青空の様に晴れやかな心』て? 僕はちっともそんな気分じゃない。
「こら。静かにしなさい」
そう淡々と古藤先生は注意するけれど、そうさせたのは紛れもなく僕を選んだ古藤先生だ。いや、その名前に似合わない僕が悪いのか。皆と違う僕が、一番嫌いだ。
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