6つ目『綺麗な青空』

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 しかし、そんな絶不調の俺を急かす様に、この日の1分1秒はやけに早く回る。  頭も体も重いまま印刷文字と闘いを終えた俺は、これまで以上にない手応えの無さを抱きつつ、浮足立ったまま駅へと訪れていた。  テスト期間で学校が早く終わったので、待ち合わせ時間まで近くの書店で時間を潰す。  今までライブの先行抽選券が付いてるCD目当てでしか寄った事が無い。しかし、何となく本物の“小説家”が書く物語に興味が湧いていたのだ。  そんな突拍子もない考えを色とりどりの表紙と帯の謳い文句が刺激させる。  一先ず、平積みされている人気そうな作品に手を伸ばしたが、初心者にとっては敷居が高かすぎた*¹らしく、数行読んで作品から門前払いを喰らってしまった。  やっぱり俺じゃ無理かなと思いつつ、次の作品へと手を伸ばす。  けれど、次の作品は砕けた書き方で難しい表現も無い。と言うより、3ページ目で笑い声が出そうになる程コミカルだ。帯には『勇気がもらえて泣ける』と書いてるが、これが?  でも、面白い。もっと読みたい。そんな思いが次のページへと指を動かした。  それに、内容は異なるが今岡さんの書き方とよく似ている。そうか。シンプルで読みやすい文章って今岡さんに伝えれば良いのか。  そんな事を考えながらも物語に没頭していると、気付けば待ち合わせギリギリになっていた。 ―――――――――――――――――― ※1敷居が高い:実際の「相手に不義理などをしてしまい、行きにくい」という意味ではなく、「玄人向けの作品」と言う意味で使用しています。
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