6つ目『綺麗な青空』

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 まだ読み終わっていないが『勇気がもらえて』の意味が理解できるぐらいページを捲っただろう。  特に、言葉の力を扱った題材だったからか、嘘を吐き続けている自分の胸を容赦なく抉る物があった。  更に主人公と自分がよく重なる。だからかその710円ちょっとを本棚に戻す事が出来ない。  そして俺は初めて、自分の選んだ小説をレジへと持っていった。 「今回も凄かった! 特に2人の誤解が解けかけた瞬間がもう――」  そう今岡さんに語ったのは本屋から出て10分も経ってなかっただろう。上手くもない話を今岡さんは照れくさそうに、けれど嬉しそうに聞いてくれている。  それだけで、あぁ、今回も頑張って良かったと胸の温かさが口角を引き上げた。 「それでさ、今岡さんの文章って、凄くシンプルで読みやすいよね」  まるで覚えたての言葉を自慢する小学生みたいに、さっき学んだ事を早速使ってみる。ちょっとは小説好きっぽく聞こえるのではないだろうか。  けれど、嬉しそうに微笑んでいた今岡さんの表情が、一瞬にして不安そうに曇りだした。それは今まで生きてきた中で一番残酷な答え合わせ。俺、間違えたんだ。 「ありがとう、青田君……」 「う、うん……」  やってしまった。今岡さんが望んでた感想では無かったのだ。無知の癖に調子乗るから。気まずい空気の中、俺は期末テストよりも頭を回す。  さっき読んだ本でも話題に出すか? そしたら言いたかった事伝わるかもしれない。  けれど、今岡さんがその本知らなかったら? というか、普段どうやって本を読んでるんだ? 前盲目の人の事を調べたら『点字』『音訳』とかあったけれど、あの本もそういうので出版されてるのか?
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