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そして2日後の日曜日。天気、曇。
「風凄いねー」
そう言いながら今岡さんは靡く栗色の髪を片手で抑えていた。いつもの制服姿も言わずもがなだが、白のロングワンピースに赤のカーディガンも新鮮であり似合いすぎている。
スターフロントの在るいつもの駅から電車で約1時間半。現在15時過ぎ。その場所は、豪快な音を轟かせながら水しぶきを上げていた。
「凄い潮の匂い。来たって感じするね。海」
そう彼女は海に視線を合わせないまま微笑んだ。
俺達は『ありふれた。』のラストシーンを細かく書く為に、海へと訪れたのだ。
「ホントに俺なんかで良かったの?」
そう今岡さんに片腕を貸したまま語り掛けると、遊園地を前にした子供みたいな笑顔でうなずく彼女。
後ろから見たら高校生のカップルが腕を組んで歩いているように見えるだろうか? というか、この状況って俗に言うデートなんじゃないか?
「だって、小説の事相談できるの青田君しか居ないし。だから、今日はあたしの“目”になってね」
その言葉は淡い期待を打ち消し、責任感と切なさを残して引いていく。
今日は海の情景を今岡さんに伝える為に一緒に来たのだ。やっぱり俺じゃ、彼氏役にも、片思いしている幼馴染の代理にもなれないらしい。
けれど、それでも、今岡さんの為にはなれるのだ。
「ファン1号として頑張るよ」
細い糸で縛られた様に心が痛い。ギリギリと悲鳴が鳴る。ただ、波の音のお陰で耳の良い今岡さんでも聞こえないだろう。
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