6つ目『綺麗な青空』

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「あー、晴れてたらもっと違う景色見れたかな?」  質問に答え終わった時、唇を突き出し呟く今岡さん。  残念ながら今日は曇りだし、海も若干荒れている。名ばかりの春と言った気候のせいで、夏のシーンを描くには結構早すぎた。 「でも、何でラストが海なの?」  それはただのふとした疑問。別にこの季節に書くのなら、桜の咲く頃でも良い筈だ。 「中学の時、幼馴染と親友と他の友達と海に来たんだけどさ。その時に見ちゃったの。幼馴染が親友に告白した所」  “不正解の質問”だとわかった時にはもう遅く、昔を懐かしむ表情の彼女を目の前に、清水の嗤い声が頭で駆け巡った。 「あ、勘違いしないでね? 何度も言うけど昔の話で今は何とも思ってないし。ただ、その時のインパクトが強すぎて、これしかイメージ浮かばなかったの。まぁベタすぎだなって自分でも思うんだけど」 「そう、なんだ……」  そりゃインパクト強いだろ。自分の好きな人が他の人に告白する場面なんて。それも、“ベタ”って事は多くの人が憧れてるって事だ。  そんな場面をどんな気持ちで見てしまったのだろうか。海を前に、好きな人の失恋話聞いてる俺も大概だけど。 「ごめんごめん。何か昔の事ネタにして重いね」  またぎこちない笑顔を浮かべながら自虐を言う。無理してる時、自分の弱さやかっこ悪さを曝け出した時、彼女は決まってこんな顔をするのだ。  そして、今の彼女にこんな表情をさせているのも、きっと笑顔に変える存在も“清水”である事が、無性に腹立たしくなってきた。
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