1つ目『ちょうど俺も行こうとしてたんです』

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 今岡さんには会いたいな、何て思いながらも、それを上書きするように現実は過ぎていく。  信用していないテレビの星座占いから始まり、登校時にスクロールされていく電車の窓とSNSの情報を、学校で呆気なく消される黒板の文字を睡魔と戦いながら追っていけば、昼前にはすっかり忘れていた。  それぐらいに、退屈な“今”が心地よかった。男子校のせいで彼女は居ないけど、仲良い友達とバカできればそれでいい。  ……そう、俺はいいんだけど。 「足立、本当にこの大学で良いのか?」  放課後、学校で唯一コーヒーの匂いが充満している部屋で、担任の横山は俺に尋ねた。  横田の机の上には『足立 青空』と汚い字で書かれた進路の紙が中央を陣取っている。仕方ない、電車の中で急いで書いたのだから。 「頑張ればもっと上にいけるだろ?」 「まぁ、頑張りたくないんで」  その言葉に、横山は納得していない表情を浮かべながら、唸るように椅子を軋らせた。 「いや、人の進路だから口出ししたくないんだけどな? お前だけ期日過ぎて進路調査提出したから、何か理由あんじゃねーかと思って」  体育教師って情に厚いというか、何でも熱い方に持っていきがちというか。年中ジャージ姿の横山を見てるとそう思ってしまう。もう今年で50歳になるらしいが、きっと80歳になってもこの人は熱いままジャージを着ているのだろう。  だが、進路表の提出が遅れたのは、ただ単に忘れてただけだった。進路先も家から通えそうな大学を検索にかけて、出てきたそこそこ有名な大学を書いただけ。正直、大学名以外よく知らない。
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