7つ目『好きだったんだ』

1/10

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ

7つ目『好きだったんだ』

「実は、青空に憧れてる理由がもう1つあって」  そう今岡さんが口を開いたのは、チラホラ席が空いている帰りの電車でだった。 「あたし、『青』ってが好きなんだ」  その一言に疑問符を浮かばせながら、今岡さんの顔を覗く。すると、見えていない筈の彼女が、ふわっと口角を上げた。 「色じゃなくて言葉が好きなの。不思議なんだけど、あたしが出会った人で名前に『青』って漢字が入ってる人は絶対優しい人でさ」 『青』の名前に少しドキリとする。て事は、『足立 青空』も含まれてるって事か? それと『青田 こーき』も。 「それも、何でか喋り方からして優しさが溢れてるっていうか。声が『青空』って言葉が似合うぐらい―― 太陽みたいな声してるんだよね」 『なんか声が『足立 青空(そら)』って名前に似合うぐらい―― 太陽みたいな声してるよね』  思い出した。と言うより、重なったの方が正しいかもしれない。小学生の時に言ってくれた言葉。あの瞬間だけ、名前が好きになれた言葉。 「太陽ってさ、光が強いから目瞑ってても瞼の裏明るくするじゃん? それと同じような声なの。強がった『大丈夫』を優しさでこじ開けてくるみたいな…… 小説家目指してるとは思えない例えだけど」  言いながら照れる彼女が可愛くて「言いたい事はわかるよ」とフォローする。すると「あたし、咄嗟に思い付くタイプじゃなくて、熟考するタイプだから」と今岡さんは笑って見せた。 「言いたかったのは、青田君もそんな声してるなって初めて会った時に思ったの。だからいつもは人に頼るとかあんまり出来ないんだけど、青田君に声掛けられた時『この人、絶対信用できる人だ』って思ったし、頼りたいって思ってさ。それは今も変わらないというか。その、えーと、青田君の事……」
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加