13人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
7つ目『好きだったんだ』
「実は、青空に憧れてる理由がもう1つあって」
そう今岡さんが口を開いたのは、チラホラ席が空いている帰りの電車でだった。
「あたし、『青』って言葉が好きなんだ」
その一言に疑問符を浮かばせながら、今岡さんの顔を覗く。すると、見えていない筈の彼女が、ふわっと口角を上げた。
「色じゃなくて言葉が好きなの。不思議なんだけど、あたしが出会った人で名前に『青』って漢字が入ってる人は絶対優しい人でさ」
『青』の名前に少しドキリとする。て事は、『足立 青空』も含まれてるって事か? それと『青田 こーき』も。
「それも、何でか喋り方からして優しさが溢れてるっていうか。声が『青空』って言葉が似合うぐらい―― 太陽みたいな声してるんだよね」
『なんか声が『足立 青空』って名前に似合うぐらい―― 太陽みたいな声してるよね』
思い出した。と言うより、重なったの方が正しいかもしれない。小学生の時に言ってくれた言葉。あの瞬間だけ、名前が好きになれた言葉。
「太陽ってさ、光が強いから目瞑ってても瞼の裏明るくするじゃん? それと同じような声なの。強がった『大丈夫』を優しさでこじ開けてくるみたいな…… 小説家目指してるとは思えない例えだけど」
言いながら照れる彼女が可愛くて「言いたい事はわかるよ」とフォローする。すると「あたし、咄嗟に思い付くタイプじゃなくて、熟考するタイプだから」と今岡さんは笑って見せた。
「言いたかったのは、青田君もそんな声してるなって初めて会った時に思ったの。だからいつもは人に頼るとかあんまり出来ないんだけど、青田君に声掛けられた時『この人、絶対信用できる人だ』って思ったし、頼りたいって思ってさ。それは今も変わらないというか。その、えーと、青田君の事……」
最初のコメントを投稿しよう!