7つ目『好きだったんだ』

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 落ち着こうとしてるのに、やっぱりややこしい話し方になる。意味が通じたかわからないけど、一応今岡さんは静かに頷いてくれた。  彼女の動作を確認した後、椅子に深く座り直し姿勢を正して深呼吸する。全然空気を吸えた感覚なんて無いけれど、それでも声を絞り出した。 「まず、今岡さんを恨んだ事なんて一度も無いから。逆に、俺にとってはヒーローみたいな存在で、だからこの駅で今岡さんに偶然会った時、凄く嬉しかった。けど、盲目の今岡さんにどう接したら良いかわからなかった…… それで、色々話したいって気持ちと、失礼かもしれないけど放っておけなくて、スターフロントに『俺も行こうとしてたんです』って」  カッコ悪。何言ってんの。そんな自分の声が心ん中で木霊する。けれど、口は止まらなかった。 「それから、想像できないだろうけど俺、昔より痩せて、見た目だいぶマシになって。マシになっただけなんだけど…… ただ、まだチビデブん時の自分が嫌いで。言いたくなかったんだ。『足立 青空』って名前。憧れてる人に、昔の自分を想像してほしくなくて」  彼女の栗色の瞳を真剣に見つめている筈なのに、彼女の顔色を伺う余裕なんて微塵も無い。 「今岡さんが『小説家目指してる』って話してくれた時、『今岡さんならなれる』って本気で思った。何様だよって思われるかもだけど、それだけ憧れてた人だったし、だからこそ叶えてほしかった。それに、自信なさそうな今岡さんを、何とか元気付けたくて。それで、本当は小説なんて普段読まないけど『小説好きなんだ』とか嘘吐いて…… あと誤字の事だけど、本当はいっぱいあった。それで、本当に申し訳ないけど……」  一旦、大きく息を吸い直す。『青田 こーき』よりも失礼な嘘だ。殴られても仕方ないぐらいの。
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