今岡さんの本音

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今岡さんの本音

 春休みが終わった4月。雲1つない晴天を背景に桜が我が物顔で咲き誇る。そんな中、学校の下駄箱から出てきた俺は、落ちた挙句踏まれてドロドロになった花びらへと視線を落とした。  嘘がバレたあの日から今岡さんと会っていない。当然ながらスターフロントにも行っていない。そういや、苺フラペチーノ始まったんだよな。教えてあげる事も出来なかった。  気分が落ちてる時ほど良い天気というのが無性に腹が立つ。これから更に暑くなっていくだろう。そして18歳になる日も卒業も近付いてくる。 「はぁ~」  俺は何も決まっていない。いや、適当に決めた進路をさっき白紙に戻してきたって言った方が正しいだろうか。  小説の訂正を行わなくなって、頑張ってたあの時間が少し恋しくなった。そして、努力出来た自分が、僅かな間でも感謝された自分が、少しだけ好きだった事に気付いた。  だからもう一度、次は受験を頑張ってみたくなった。次こそは、他の誰かも、自分自身も、失望させない様に。  久々に職員室で今年も担任の横山と話しをしたが、持ち掛けたのはこっちから。『早く決めろ』とか言われると思ってたけど、何故か横山は嬉しそうに椅子を軋らせて話を聞いてくれていた。やっぱ良い先生だ。  もう溜息を吐いても白い息は出ない。マフラーもいらなくなった。それ以外は進路調査を出す前の2月に戻った筈。今岡さんと再会する前に。  なのに、まだ埋まらない何かがくすぶり続けている。  今岡さんは、夢を諦めなかっただろうか。俺が心配するのもおこがましいけど。  そういや、清水とは連絡とってたんだ。俺は、連絡先さえ聞いてない。いや、盲目だからメッセージ見れないんじゃないかって勝手に決めつけて、聞けなかった。盲目の人がどんな生活しているのか聞くのが怖くて逃げ続けて、彼女と向き合おうとしなかった。  見た目が変わっても情けない所は何も成長していない。そう思いながら遠くで聞こえる何部かの掛け声を後ろに、学校の門を潜る。  その時、栗色の髪が俺の視界に移り込んだ。
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