今岡さんの本音

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「……え?」  門の前の横断歩道に、白い杖を持った女性が立っている。ここら辺で有名な盲学校の制服、栗色の瞳に白い小さな顔。その可憐な姿と杖に近くの男子高校生達がチラチラと彼女へ視線を送っている。 「今岡…… さん?」  どうして? 偶々ここに用事があったとか? 赤信号を挟んだ向かい側で軽くパニックになる。  ただハッキリと分かるのは、声を掛けてはいけない。だって、絶対会いたくないだろう。俺なんかに。  そんな考えが胸を締め付ける中、俺と同じ制服を着た男子が彼女へと声を掛けた。何を話しているかはわからない。けど、男のニヤついた笑顔と彼女の困った愛想笑いが視界から信号の色を消す。 「彼女に何の用?」  そう口から出た時、既に俺は男の目の前に立っていた。信号は恐らく空気を読んで緑に変わってくれただろう。  それと、180の身長が役に立ち、自然と男を見下ろすような形になっている。それが功を成したのか、男はしどろもどろに口を開いた。 「え、いや、目的地まで案内してあげようかって…… でも、あの、すみませんでした!」  小走りで逃げていく男子生徒の背を見ながら、突っかかってこなくて良かったと安堵する。まぁ、この学校の殆どがガリ勉だ。俺含め。 「青…… じゃなくて足立君だよね?」  その問いかけに、彼女の表情が見れない。やっぱり耳が良いらしく、すぐに俺の声でばれてしまった。もう嘘を吐くつもりはないけど。
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