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「じゃあ、ありがとう」
「え?」
顔を上げた今岡さんがもう一度ふわりと笑う。
「全部話してくれた時、悔しかったのもあった。けど、冷静になったら嬉しかったの。あたしの為に小説読んで感想考えてくれたのも、修正してくれてたのも。あたしが人に頼る事出来ない性格だってわかって応援してくれたんだろなって」
空っぽだった筈の心が、破裂しそうな程苦しく満たされる。それが目から溢れそうで、必死に上を向いた。
「足立君が良かったら、もう一度…… 協力してくれないかな?」
そう両手で差し出された茶封筒へそっと手を伸ばす。
「…… 喜んで」
ファン1号として、そして『足立 青空』として、今岡さんの原稿を両手で受け取った時、情けない事に視界が滲んでいた。
いつもの駅まで今岡さんを送り届けたのは、お昼にしては遅すぎるぐらいの時間帯。忙しそうに動き回るサラリーマンも、同じ制服の生徒もあまり目に付かない。
「どうする? 良かったらスターフロント寄らない?」
そう尋ねたのは今岡さんだった。
何故かそれが、自分の『まだ一緒に居たい』と重なって、胸から嬉しさが溢れ出る。
「俺も、丁度寄りたかった」
「それも嘘?」
「これは本当…… です」
「どーだか」と言いながらクスクスと笑う今岡さん。これはずっと弄られるなという思いと、反省と、幸せそうな今岡さんに安堵する気持ちが情けない表情にさせた。こんな間抜けな顔見せられやしない。
スターフロントの前には『苺フラペチーノ』という文字と赤ピンクの飲み物が写ったポスターが貼られていた。そうだ。今岡さんに教えようと思ってたんだ。そんなふわふわした気持ちを抱きつつ、口を開こうとしたその時。
「由希!」
そう叫ぶ声が今岡さんの足がぴたりと止めた。そして俺も声の方へと振り返る。
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