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「清水……」
今岡さんの呼んだ名前に息が止まる。目の前には有名な公立校の学ランを着崩した男性が立っていた。
身長は自分とあまり変わらないか、少し低いぐらい。ワックスでセットされた髪型と、運動部がよく使ってるエナメルの大きな黒バックが彼の“今”を物語っている。
けど、少し釣り目のキリっとした顔立ちと日焼けした小麦色の肌は、小学生の時、俺を虐めていたクラスメートの面影を残していた。
「お前、まだデブ勉に騙されてんのかよ」
そう清水は言いながら俺の腕を掴んでた今岡さんの手を無理矢理引き剥がす。その瞬間、今岡さんが痛そうに顔を歪ませた。
「おい! やめろよ!」
気付けば、俺は元虐めっ子の腕を掴み睨んでいた。
「あ?」
釣り目が眉間に皺を寄せながらこちらを睨んでいる。その時やっと反射的に体が動いた事に気付いた。
過去の自分なら絶対こんな事やらないだろう。いや、今の自分でも冷静なら絶対にしない。さっきの同じ学校の奴と違って勝算なんて何も無い。
「何? 青田君だっけ?」
そう鼻で嗤う姿は過去の清水のまま。しかし、それが何故か恐怖心よりも違和感を強くさせた。
「俺に復讐できないからって由希に手出すとかダサすぎだろ」
「復讐なんかじゃねーよ」
いつもは平和主義の筈なのに、掴んでた腕が勝手に力む。自然に口調も荒くなる。今岡さんを連れ去られてはいけない。彼女の不安そうな表情がそう思わせていたのだろう。
だが、次の瞬間、清水の言葉に耳を疑った。
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