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「今岡さん、手、握って良い?」
彼女の目の前で語り掛ける。俺は、強引に彼女を引っ張るようなコイツみたいにはなりたくないから。
すると、今岡さんはゆっくり手を伸ばしてくれた。
「おい由希! デブ勉の話に乗んなって……」
「デブ勉じゃないから」
今岡さんの凛とした声が清水の言葉をピシャリと止める。
「今の足立君は最高にカッコいいあたしの彼氏だから」
彼女にしてはいつもより低い声だけど、表情はふわりと柔らかい笑みだった。それを見て、自分も応えるように彼女の手を取る。
「行こ。今岡さん」
優しく彼女を導きながら、戸惑った表情の清水から引き離す。今岡さんに向かって手を伸ばしてる姿を見た気がするが、直ぐに背を向けてやった。
『幼馴染も思わせぶりな事しといてあっちとくっつくし』
『でないと、こっちは未練ないのに……』
ふと、今岡さんの言葉を思い出す。
『ありふれた。』にも有る。男性主人公の方が気の無いフリしたりヒロインの恋を応援したり他の女子と仲良くしてるのに、時折見せる優しさや嫉妬の様な行動が、ヒロインの心を苦しめる描写。
あれってこう言う事を言ってたんだなと、今岡さんの清々しい表情がそう思わせた。
少しだけ、俺もヒーローの様になれただろうか。
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