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「だ、大丈夫ですか?」
咄嗟に出た言葉と腕を、尻餅のついた彼女に差し出す。すると、髪と同じ栗色の瞳がキラリと光った。
あぁ、やっぱり。彼女を見てそんな言葉が頭に浮かぶ。
身長も伸び、大人っぽくなっていたが、白い小さな顔と栗色の綺麗な瞳は変わらない。いや、より綺麗な女性になっている。
懐かしさがじんわりと胸を焦がした。
ただ、それとは反対に彼女への違和感が一気に冷静さを連れ戻した。何故か彼女と目が合わないのだ。
「あ、ありがとうございます」
女性は小さな口を動かして礼を言うと、俺の差し出した手を無視して立ち上がる。
右手に白い杖を持ちながら。
その姿に、俺だけ時が止まったようにぼーっとその場を眺める事しかできない。無視された事がショックだったとかそんな事じゃなくて、明らかに昔の彼女とは違うある事が、冷静さを通り越し冷たい何かに変わっていく。
そんな中、彼女が黄色いタイルの上に居る事や、ここら辺では有名な盲学校の制服を着ている事が段々整理されていった。
あの、俺にできなかった事をやってのけてしまう彼女が? ヒーローの様な彼女が? どうして……
「あの…… お聞きしたい事があるんですけど……」
彼女の声に俺ははっとして、栗色の瞳をもう一度覗く。しかし、彼女の目線とはやっぱり結びつかないまま。
「この駅の近くに、『スターフロント』っていう喫茶店があると思うんですけど、場所教えてくれませんか?」
その言葉と困ったような笑みは、俺に無理矢理確信を押し付けた。
スターフロントは彼女のすぐ目の前だったから。
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