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この日を何度想像したか。
俺はずっとお前と一緒だった。
お前の遊び相手は俺で、お前の怪我の責任は俺で、荷物運びも教育係も俺で。
お前が嬉しい時は俺も笑い、お前が辛い時は俺も泣き。
健やかなる時も病める時も供に在り続けた。
そして今、お前は純白のドレスを纏う。
「本当に俺でいいのか?」
「貴方が一番相応しいわ」
清々しく美しい笑顔。
係りの合図に、俺はお前の顔にベールを下ろし、お前と腕を組む。
開かれた扉から厳かな音楽の中へ。
赤い絨毯を踏みしめ、白いスーツの男の前で俺は深々と頭を下げた。
「お嬢様を宜しくお願い致します」
「本当の父親みたいですね」
そうだったらまだ楽だっただろうか。
願う事も告げる事も許されぬ想いがあった。
自席に着き、顔を覆う。
政略結婚も退け純愛を通したお嬢様。
お前の幸せに俺も必ず笑い合おう。
だから、どうか。
ベールが上がりお前の笑顔が見える、その瞬間までは、
行先のないこの想いに、涙する事を許してくれ。
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