ぽろり。

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 ぽろり。  僕の目から一粒の涙が零れた。その一粒をきっかけに止めどなく涙が溢れ出した。泣くことなんて、とうの昔に忘れていたのに。  彼女は僕に近づき、ゆっくりと僕を抱きしめた。僕は彼女の胸で、泣いた。  嗚咽を上げて、恥ずかしげもなく、ただ泣いた。そうか。僕は泣きたかったんだ。    彼女の胸で感じる温もり、柔らかさ、優しさが身体の髄まで到達した時、遠い記憶から呼び戻される人がいた。それは幼い頃、僕をしっかりと抱きしめてくれた人。  そうだ。これは母の愛だ。僕は彼女の存在を初めて理解した。  僕があまりにも不甲斐ないから。前へ進めないから。母は姿形を変えて、僕に逢いに来てくれたんだ。僕がこれから、地に足をつけて歩んでいけるように。 「もう大丈夫?修太」  彼女はそう言うと、霞のごとく、ゆっくりとその場から消えていった。僕の腕から消えていく彼女の感触とメッセージを、僕は全身の細胞で感じた。  そして、僕はまた1人になった。
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