桜の大樹

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桜の大樹

  …血染めの花が咲く。  墨で塗り潰したような漆黒の闇の中で、深紅のはなびらが霞のようにそよぐ。まるで、噴出す血潮のように鮮やかに闇を彩る。  それは、持ち得た者の罪に応じ、流してきた血に応じ、(あか)く染まりいく罪の花。この上なく、深い赤の向こう側には、そう、忘れてはならぬ罪の記憶がある。  人の罪を刻み、人の罪を罰し、人を(ゆる)すために咲く、贖罪の花。それ故に、人が在り続ける限り花は咲き、罪が在り続ける限り血に染まる。枯れること無く咲き続ける、罪の連鎖の結晶。  ()の者が禊の果てに罪より解き放たれし時、花は散り往く。罰と赦しの果てにある、その場の全てを血のように染め上げる、(あか)い、(あか)い、桜吹雪。  彼岸(ひがん)此岸(しがん)の狭間に在って、負の力を吸い上げ、緋色の桜が花開く。後は、無限の闇だけが冷ややかに其処に在る。
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