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ウィンザー家に承諾の返事を送り、ほどなくしてアーサーはひとり王都に赴いた。
久しぶりに訪れた騎士団本部はあのころとあまり変わっていない。懐かしく思いながら受付でリチャードへの面会を申し入れたところ、すこし待たされてから騎士団長の執務室に案内された。
その奥の執務机にリチャードはいた。
いつのまにか騎士団長になっていたらしい。騎士服はいささか立派なものになっていたが、彼自身の見目はあのころのままである。一礼すると、彼は気まずそうな笑みを浮かべて立ち上がった。
「久しぶりだな」
「はい」
部下を下がらせてアーサーに応接ソファを勧めると、向かい合わせに座る。
「約束もなくお伺いして申し訳ありません。所用で王都まで来たので、失礼ながらついでに寄らせていただきました」
「来てくれてうれしいよ」
リチャードがやわらかい微笑を浮かべるのにつられて、アーサーの頬も緩んだ。
何となく縁談には触れないまま互いに近況を話していく。しかしすぐに話題は尽き、二人きりの部屋に息の詰まるような沈黙が落ちた。アーサーは腿のうえで組み合わせた手に力をこめる。
「……シャーロットは」
目を伏せたまま、どうにか決意を固めて本題を切り出した。
「あの子は、わたしたち夫婦にとってかけがえのない大切な娘です。これまで愛情をもって大事に育ててきました。なので……こんなことを言える立場でないのは重々承知しておりますが……」
そこで顔を上げると、まっすぐにリチャードの目を見据えて訴える。
「どうか、シャーロットを幸せにすると約束してください」
彼女のために自分ができるのはせいぜいこのくらいのこと。しかし他ならぬアーサーが頼むからこそ効果がある。そう信じて、仕事が忙しいにもかかわらず自らここまで足を運んだのだ。
「ああ……必ず幸せにすると約束する」
リチャードは目をそらすことなく受け止めてくれた。
本当にシャーロットが幸せになれるかは別にして、きっと努力はしてくれる。少なくとも蔑ろにはしないはずだ。彼の言葉で、表情で、態度で、どうにか自分をそう納得させることができた。
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