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「シャーロット!」
リビングに駆け込むと、彼女は普段とすこしも変わらない姿でそこにいた。アーサーの姿をみとめて気まずげな顔になったものの、すぐさま我にかえったように表情を引き締めて一礼する。
「お父さま、ご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。結婚するまえに、どうしても一度カーディフの街に行ってみたかったのです」
「……逃げ出したのではないのか?」
「そんなつもりはありません。最初に言ったように結婚は受け入れていますから。いつか誰かとすることですもの。あ、これおみやげです」
ふと思い出したようにローテーブルの上の紙袋を手に取り、アーサーに渡す。
中にはいくつかの茶葉の瓶と小さな包みが入っていた。ローテーブルの上にはまだ同じ小さな包みが三つあるので、家族みんなに買ってきたのだろう。中身はおそらくハンカチではないかと思う。しかし——。
「おまえ、お金なんて持っていなかっただろう?」
「ネックレスをひとつ売りました。申し訳ありません」
「それは構わないが……」
ほとんどのものはここに置いていくことになっているので、最後に役に立てたのならよかったが、未成年が売るとなると裏通りの治安のよくない店しかない。下手したら無事ではすまなかったと今更ながらヒヤリとする。
「……街は、楽しかったか?」
「はい、劇場でお芝居を観ましたし、カフェにも行きました。移動販売でサンドイッチも食べたんです。とても楽しくて……本当に、夢みたいで……」
最初はニコニコと無邪気に声をはずませていた彼女が、途中で言葉を詰まらせる。ここではないどこかにせつなげなまなざしを向けて。その表情にアーサーは胸を締めつけられてしまい、何も言えなくなった。
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