第5話 伯爵家の堅物当主は元同級生から離れられない

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 翌日、予定どおり馬車でウィンザー家に向かった。  夜更けに到着すると、公爵夫妻はにこやかな笑顔で歓迎してくれたが、結婚する当人であるリチャードはまだ来ていなかった。どうしても外せない仕事ができたので少し遅れるとのことである。  仕方ないとは思いつつも、婚約者どうしの顔合わせもまだなのにと不満は募る。結婚式に間に合うかも不安だ。シャーロットもそういう素振りは見せないものの、同じ気持ちではないかと思う。  ただ、彼女にはそれなりにやることがあったのでよかった。ウェディングドレスのサイズ調整をしたり、結婚式の段取りを確認をしたり、公爵夫人とお茶をしたりであまり悩む暇はなかっただろう。  だが、結婚式当日の朝になっても夫となるひとが到着していないと聞くと、さすがに不安をにじませた。公爵夫妻もひどい顔色である。それでも時間までには来ると信じて支度を進めるしかなかった。  シャーロットを幸せにすると約束してくれたはずなのに、さっそくこんな——。  アーサーも心配と不安でどうにかなりそうだった。自分たちの支度をすませると、他にすることもないのでひたすら気を揉むしかない。グッと奥歯を噛み、まだ姿を見せない彼に内心で苦言を呈したそのとき。 「リチャード様が到着しました! いま大急ぎで支度をしているそうです!」 「そう、か……よかった……」  グレイ家の控え室に飛び込んできた執事の報告にほっとして、全身から力が抜けた。開始時刻に間に合うのかはまだわからないので、安心するのは早いが、それでも最悪の事態は避けられたと思っていいだろう。
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