エピローグ 〜 公爵家の幼妻は旦那様と仲良くしたい

3/4
287人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
「本当に、十年前から……?」 「初めて会った誘拐事件のときに好きになったんだ。君と確実に結婚できるように、騎士団長にまでなって陛下の口添えをいただいた」  とても嘘を言っているようには見えないが、事件当時のシャーロットはまだほんの五歳である。そんな小さな子供を異性として好きになったうえ、十年もかけて結婚を画策するだなんて——。 「悪いな、結婚をなかったことにはしてやれない」  シャーロットが微妙な面持ちのまま考えをめぐらせていると、彼は自嘲まじりにそう言い添えた。あわててシャーロットは弾かれたように「いえ」と声を上げた。 「わたしは結婚をやめたいだなんて思っていません。ただ、リチャード様が失望してしまわないかと心配していたのです。いまはもう、あなたが好きになった五歳の女の子ではありませんし……」 「いや、別に俺は幼女が好きってわけじゃないからな?!」  必死に言い訳する彼に、シャーロットはただ曖昧な笑みを浮かべて応じた。  この十年のあいだに成長して変わったところは多々ある。そのことで失望されるかもしれないという不安は消えないが、それを追及する気はなかった。なのに——彼はふと何かを察したように真面目な顔になり、言葉を継ぐ。 「君のことはあのときからずっと写真をもらって見てきたし、話も聞いてきた。会ってはいなかったがある程度はわかっていたつもりだ。でも実際に会った君はそんなものをはるかに超えていたよ……ロッテ」  甘く愛おしむような声であのときの名前を呼ばれて、頬が熱くなる。  彼の話から、少なくとも十年前の幻影を追っているわけではないとわかった。きっとこれからも目の前のシャーロットと向き合ってくれる。そう思うと、ようやくすこし安心できた。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!