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「本当に、十年前から……?」
「初めて会った誘拐事件のときに好きになったんだ。君と確実に結婚できるように、騎士団長にまでなって陛下の口添えをいただいた」
とても嘘を言っているようには見えないが、事件当時のシャーロットはまだほんの五歳である。そんな小さな子供を異性として好きになったうえ、十年もかけて結婚を画策するだなんて——。
「悪いな、結婚をなかったことにはしてやれない」
シャーロットが微妙な面持ちのまま考えをめぐらせていると、彼は自嘲まじりにそう言い添えた。あわててシャーロットは弾かれたように「いえ」と声を上げた。
「わたしは結婚をやめたいだなんて思っていません。ただ、リチャード様が失望してしまわないかと心配していたのです。いまはもう、あなたが好きになった五歳の女の子ではありませんし……」
「いや、別に俺は幼女が好きってわけじゃないからな?!」
必死に言い訳する彼に、シャーロットはただ曖昧な笑みを浮かべて応じた。
この十年のあいだに成長して変わったところは多々ある。そのことで失望されるかもしれないという不安は消えないが、それを追及する気はなかった。なのに——彼はふと何かを察したように真面目な顔になり、言葉を継ぐ。
「君のことはあのときからずっと写真をもらって見てきたし、話も聞いてきた。会ってはいなかったがある程度はわかっていたつもりだ。でも実際に会った君はそんなものをはるかに超えていたよ……ロッテ」
甘く愛おしむような声であのときの名前を呼ばれて、頬が熱くなる。
彼の話から、少なくとも十年前の幻影を追っているわけではないとわかった。きっとこれからも目の前のシャーロットと向き合ってくれる。そう思うと、ようやくすこし安心できた。
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