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「そういえば、あのとき最初からわたしだと気付いていたのですよね?」
「ああ……ひとりで街にいる君を見かけて本当に驚いたよ。自分の素性を明かさなかったのは、君に結婚を強いた公爵家の人間としてではなく、ひとりの男として見てほしかったからかもしれない」
きまり悪そうにしながらも、彼は聞きたかったことまで先回りして答えてくれた。
あのときシャーロットが街にいることは誰も知らなかったはずなので、出会ったのは本当に偶然だろうし、素性を明かさなかったのも明確な意図はなかったのかもしれない。それでも——。
「ずるいです」
あえて口をとがらせて言う。
「そのせいでわたしがどんな気持ちでいたかわかりますか? とうに心を決めていたはずなのに、結婚するのがつらくなってしまって……こんなことなら出会いたくなかったとさえ思いました」
「それって……」
「リック様を好きになってしまったんです」
その告白に、彼は想像もしなかったとばかりに大きく目を見開いた。たった半日しか一緒に過ごしていないのだから当然かもしれない。それでもシャーロットはにっこりと微笑んで言葉を継ぐ。
「だから、責任をとってくださいね」
「責任……?」
そう聞き返す彼に、やわらかに腕を伸ばして抱きついた。
瞬間、薄布越しに伝わってきたのは無駄なく鍛えられた体躯、そして体温。こんなにも男性に密着したのは初めてのことで、心臓が壊れそうなくらいドキドキしながらも、そっと口を開いて言う。
「ずっと、末永く仲良くしてほしいの」
「……約束する」
静かながらも芯のある声が返ってきた。
ほっとした瞬間、彼にやさしく両肩を押されて二人の体が離れた。戸惑いながら顔を上げると、怖いくらいまっすぐな目がそこにあって息を飲む。まるでとらわれたかのように絡んだ視線がほどけない——。
「後悔はさせない」
ふいにリチャードが宣言した。
そしてゆっくりとシャーロットの頬に手を添えながら、顔を近づけてくる。その表情は婚儀のときよりずっと真剣で——思わずシャーロットはくすりと笑い、ほどなくして紫の双眸に吸い込まれるように目を閉じた。
<「エピローグ 〜 公爵家の幼妻は旦那様と仲良くしたい」了>
完結です。
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