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「わぁ……!」
街というものを目にしたのは幼少のころ以来である。
さまざまな店が大通りにも路地にも建ち並び、老若男女が行き来し、にぎやかな声がそこかしこで上がる——それは書物にしたためられた街の様子そのもので、シャーロットは心が躍った。
「まずは軍資金ね」
大通りで立派そうな宝飾店を見つけると、躊躇なく扉を開く。
「いらっしゃいませ」
「あの、これを買い取っていただきたいのですけど」
いくつもの宝石があしらわれた美しく華奢なネックレスを取り出し、若い男性店員に差し出す。しかし彼は微笑を浮かべたまま受け取ろうという素振りすら見せず、慇懃に問いかける。
「失礼ですが、身分証を拝見させていただけますか」
「えっ」
身分証は、それなりの身分を有する成年にしか持てない。
シャーロットは未成年なので当然ながら持っていなかった。だからといってこのままあきらめたくはない。せっかく一大決心で家を抜け出してここまで来たのに、望みのひとつも叶えられないなんて——。
「わたし、あしたが十六歳の誕生日なんです。だから……」
「それでは、明日、身分証を持参のうえでお越しください」
取り付く島もなかった。
肩を落として宝飾店を出ると、待ち構えていたかのように痩せた中年男性が近づいてきた。父親よりやや年上くらいだろうか。くたびれた服に無精髭という身なりからして貴族ではなさそうだ。
「お嬢さん、宝石を売りたいのかい?」
「ええ、でも身分証がないからと断られてしまって……」
「そういうことなら裏通りの店へ行くといい」
「身分証がなくても買い取ってもらえるんですか?」
「もちろんだ、案内するよ」
親切なひとに声をかけてもらえてよかった。ほっとして胸を撫で下ろし、よろしくお願いしますとお辞儀をしたところ——。
「イテテテテテテ!」
その声に驚き、はじかれたように顔を上げる。
彼はいつのまにか背後から青年に右手を捻り上げられていた。苦痛に顔を歪ませ、必死に逃れようとしているようだがビクともしない。青年はそのまま射るように冷たく睨めつけて言い放つ。
「いますぐ失せろ」
「わかったわかった!」
青年が手を離すと、もがいていた中年男性は反動でよろけて地面に転がった。衣服や手のひらがあちこち土で汚れていたが、そのまま払いもせずによろよろと起き上がり、くやしげに青年を睨みつける。
「チッ、護衛がいたのかよ」
そう言い捨て、逃げるように路地裏へ消えていった。
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