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「ここで客引きをするのは大抵ロクなやつじゃない。君のような世間知らずな子はいいカモだ。二束三文で買いたたかれるくらいならまだマシで、取り返しのつかない悲惨な目に遭うこともある」
「……助けてくださってありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
呆気にとられていたシャーロットはようやく我にかえり、深々と頭を下げた。
捨て台詞から考えても、おそらく中年男性は騙すつもりで声をかけてきたのだろう。しかし彼に助けてもらうまでは疑いもしなかった。だから本当に心から感謝はしているのだけれど。
「お金……どうしましょう……」
ネックレスを売る以外の手立ては考えていなかったので、いまさらどうにかできるとは思えない。しゅんとして曖昧に目を伏せていくシャーロットに、彼はどこか複雑な顔をして尋ねる。
「どうしてそこまで現金がほしいんだ?」
「わたし、結婚のために明日この地を離れる予定で」
「まさか結婚が嫌で逃亡とかじゃ……ない、よな?」
「最後に街で遊びたかっただけです」
それを聞いた彼がほっとしたように安堵の息をつき、シャーロットもつられるようにくすりと笑ったが、すぐにまた顔を曇らせる。
「でも父が過保護なので黙って抜け出すしかなくて」
「なるほど、それで手持ちの現金がないってことか」
「はい……」
シャーロットは五歳のときに王都で誘拐されたことがある。
それ以来、父親はシャーロットを王都に連れて行かなくなり、領地においてもグレイ家の敷地外に出ることを禁じた。寂しかったが、自分の身を案じてのことなので仕方がないとあきらめていた。
けれど結婚が決まるといてもたってもいられなくなった。もし結婚後も外出を許されなければ、一生、外の世界を見られない。だから親の言いつけに背いてまで抜け出してきたのだ。なのに——。
「それなら俺が協力するよ」
その言葉にハッとして顔を上げる。
青年は手を腰に当て、仕方ないと言わんばかりの微苦笑を浮かべていた。きっと困っている未成年を放っておけなかったのだろう。
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