第1話 伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい

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第1話 伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい

 明日、わたしは顔も知らないおじさまと結婚するために旅立つ。だから——。  伯爵令嬢のシャーロット・グレイは部屋の窓をそっと開いた。  その向こうには雲ひとつない抜けるような青空が広がっている。降りそそぐ光はとてもまぶしい。きっと雨にはならないだろう。どうか今日だけは晴れますようにと天に祈った甲斐があった。  準備は万端だ。  この時間なら庭に使用人がいないことも確認済みだし、屋敷内から目につかない経路も調査した。今日はひとりで過ごしたいからそっとしておいて、と両親や侍女に頼むことも忘れていない。  ひとつ深呼吸をして靴を履いたまま窓枠に立つと、向かいの木に飛び移り、すぐさま軽い身のこなしで音もなく庭に降りた。動きやすさを優先した簡素なドレスなのでそう難しくはない。  ごめんなさい、最後のわがままを許して——。  誰にも見咎められることなく裏門のひとつから敷地外に出ると、やわらかなストロベリーブロンドの髪を揺らしながら、カーディフの街へと続く一本道をためらうことなく駆けていった。
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