不思議なマッサージ屋さん

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それをここで今できたばかりの友達に語ると、涙を最後までこらえきれないと思ったからである。 旅立つ時に辛いことが沢山あると覚悟したはずだ、なのにここで泣いてなどいられない。 私はソファーにしてあるベッドに腰掛けたまま、グッと拳を握り涙を堪えた。 「まあそうでしたの、話は変わりますがそろそろお湯が炊けましたわよ」 私はあっと低い声を出し、今までの自分を恥じた。 ついつい重い話を始めてしまうのは、最近の私の悪い癖だなと自分を戒めた。  アリスはヤカンから炊けたお湯をまず、ポットにうつすのではなくカップに移した。 どうしてと私が尋ねると、冷たいカップにお茶をいれると冷めて美味しくなくなってしまうからと答えてくれ、少し感心を覚えた。 ポットに高価なお茶の葉を入れ、100度近くに熱せられたお湯を上から勢いよく注いだ。 するとどうだろう、この安宿の一室に二度と訪れることのないであろう、なんとも芳しい上品な香りが漂った。 「いい香り……」 私は思わずうっとりとしてしまったが、そんな私の横顔を見て彼女はニコニコとまた微笑んだ。
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