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村人
「おや、澪ちゃん。
ふもとへお買い物かい?」
十月に入ったばかりの夕方、わたしはバス停で、ふもとの街へと向かうバスを待っていた。
通りがかったある村人が、話しかけてくる。
澪
「もうすぐ月花祭ですから!」
村人
「がんばるねぇ。
でも、無理はいけないよ?」
澪
「はい、ありがとうございます」
村人を見送ると、ちょうどバスがやってきた。
わたしはステップを踏み、街へ向かうべくバスへと乗り込む。
もう夕方なので、今から街へ向かう乗客はわたし一人だ。
――月花祭。
それは月花神社の秋祭りで、十月の最後、ハロウィンと同じ夜に行われる。
わたしは高校生でありながら、月花神社の巫女をしていて、祭の準備は大切なお役目のひとつだ。
小さな、寂れた村を守護する、唯一の神社。その、小さな秋祭り。
けれど退屈な田舎暮らしをする村人たちにとって、数少ない楽しみのひとつが、この月花祭なのだ。
そしてわたしにとっても、祭は大切な晴れ舞台である。
育ての親であり、先代の巫女であったおばあちゃんは、わたしが中学生の頃に亡くなってしまった。
一人暮らしをしつつ、学業と神社の巫女を両立するのは、とても大変だけれど……。
澪
(神社なんていいから、
巫女をやめてもいいんだよ、って
言ってくれる人もいるけど……)
澪
(わたしは村のみんなの
ために、社を護りたい)
澪
(おばあちゃんの遺して
くれた、この月花神社を――)
† † †
澪
「うわぁ、もう真っ暗……」
ふもとの街で買い物をすませ、最終のバスに飛び乗った。
そして村のバス停についたときは、すでにとっぷりと陽が暮れていた。
澪
(ついこの間まで、
夏だったような気が
してたけど……)
澪
(もう十月だもんね)
澪
「荷物、重い……」
月花祭の当日、ご馳走やらは、村の人が材料や調理された料理を提供してくれる。
わたしは今日、花飾りを作る造花や、小さな子供のお土産にするお菓子なんかを買ってきたのだ。
ひとつひとつはとても軽いものだけど、たくさんの荷物を背負い、夜道をゆくのは心細い。
澪
「早く帰って、神楽の
練習もしなきゃ」
けれど、その瞬間。
澪
「――……っ」
ぐるりと、視界が廻った。
天地があべこべになり、わたしの視界に映ったのは――
澪
(月が、赤い――)
目眩だと気付いたときには、
わたしはすでに地面へと倒れ込んでいた。
澪
(ああもう。早く帰らなきゃ)
澪
(早く……)
けれど、どれだけ体に力を込めようとしても、体はぴくりとも動かない。
澪
(どうしよう……)
焦りを感じ始めた、その時だった。
わたしの元へ、ふたつの人影が近づいてきたのだった。
――足音も響かせずに、わたしの元へ近づいてくる、ふたつの人影があった。
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