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一通りの儀式を終えた次の日、祐作はコウと万太郎と連れ立って親子水入らずで近所の神社に参詣した。万太郎の健やかな成長と、商売繁盛を祈って。
境内に入ると、同じくお参りをしていた四十がらみの男がコウを見るなり笑顔になって、「あれま、お久しぶり!」と声をかけてきた。
「あら、お久しぶりです」コウも笑顔で答える。
なんだ、この男は?まさかこいつが間男か?と祐作は気が気でなかったが、どうやらそうではなさそうだった。
「ああ、そちらが旦那様かい。やあやあ、こんなかわいい坊ちゃんまで……!そうか、あんた子宝祈願だったんだな」
ますます何者だかよくわからない男を祐作は訝しげに見る。
すると、男がそれに気づいたのか
「すいやせん、名乗るが遅れましたな。辰吉っていいます。近所に住んでるんですが、何年か前、奥様がよくお参りされてたもんで」
と自己紹介した。
祐作はわけがわからず、コウを見た。
コウは少し恥ずかしそうに俯くと、くすりと笑みを漏らした。
「なんでいおコウさん、旦那様にも隠してたのかい?」
ここでついに、祐作がしびれを切らした。
「おい、いったいなんなんだよ!お前、何を隠してたってんだ!」
「ちちうえ、ははうえを怒らないでください!」
万太郎に言われ、祐作はぐっと押し黙る。
「旦那様、そんなに大したことではないのですよ。ただ、私は万太郎が生まれる前、ここで子宝祈願をしていたのです」
「そうだよ旦那、奥さんはなあ、本当に足しげくここに通ってたんだ。理由を聞いても、『願掛けは人に言ってしまうと叶わなくなるから』っつって教えてくれなかったけどよ」
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