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「ああ、辰吉。ありがとうね」
そこでは、先ほどの男、辰吉が待っていた。
「いいえおコウ様、なんのこれしき」
「薄々感づかれていたみたいだけど、これでやっと疑われなくなったわ。万太郎が私に似ていたのも幸いしたわね」
「おコウ様、本当にこれでよかったのですか?幼馴染の啓太郎様と、せっかくお子をもうけられたというのに。むしろ離縁になって、啓太郎様と一緒になられた方がお幸せだったのでは……」
「そんなの、父様と母様が絶対に許さないわ。大店の嫁に行って、跡継ぎを生むことが、私の仕事なの。そういうふうに、育てられてきたのよ。啓太郎みたいな貧乏人と一緒になったって、苦労が増えるだけだわ」
「おコウ様……」
心配そうな顔をする辰吉を見て、コウは笑顔を見せた。その頬には、一筋の涙が浮かんでいた。
「あまり遅くなると、心配されてしまうわ。辰吉、実家に戻ったら、くれぐれも、啓太郎によろしく、よろしく伝えておいてね。証拠が残ってしまうから文を出すことはできないけれど『あなたと私の子・万太郎を大切に育てますから』と」
「はい、おコウ様、この辰吉、必ずやお伝えいたします」
コウは辰吉に別れを告げ、神社を後にした。
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