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息子の七五三
万太郎の前には、三歳の子供にはとても食べきれないほどのごちそうが並べられていた。万太郎はこれ、全部食べてよいのですか? と目を輝かせている。
「ええ万太郎様、好きなだけ召し上がってくださいね」
女中頭のキクがにっこりと微笑む。
「立派になりましたね。たくさん食べて大きくなるのですよ」
万太郎の母・コウも、目を細めて息子を見つめる。
その様子を、万太郎の父・祐作はじっと見つめていた。いささか甘やかしすぎのような気もするが、やっと生まれた跡取り息子。何はともあれ元気に成長してもらうのが一番だ。代々続くこの呉服屋を途絶えさせるわけにはいかない。
今日は髪置の儀――三歳の七五三の祝い。息子が無事三歳になったのは喜ばしいことだ。
だが、こういう節目の日だからこそ、祐作の中に巣食っていた疑念は改めて首をもたげる。そのせいで、祐作は心から息子の成長を喜ぶことができずにいた。
疑念。それは、万太郎は本当に自分の息子なのだろうか、というものだった。
何しろ、万太郎は母親譲りの目鼻立ちをしてはいたが、自分に似ているところがまるでないのだ。
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