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彼が準備してくれたシャツを静かに羽織った。
(あ……)
てっきり自分が着ていたシャツだと思っていたけど、彼のものだった。
「代わりの着替えが届くまで借りてても大丈夫だよね」
ひとごこち釦を通した。袖も、着丈も長くてシャツのなかで身体が泳いでしまっているけれど、彼の温もりに包まれているようで心臓がドキドキした。
「ごめん四季」
間違いに気付いた彼が戻ってきた。
目が合うなり顔を逸らされた。
「駄目だ。刺激が強すぎる」
「和真さん?」
きょとんとして首を傾げると、
「それ反則だから」
顔を真っ赤にし両手で顔を覆った。
「なかなか風呂から上がってこないから心配したぞ」
彼に車椅子を押してもらいながらリビングに戻ると、知らない人たちが大勢リビングに集まっていた。
怖くて思わず彼の袖を引っ張った。
「みんなご近所さんだ。四季に危害を加えようとするひとはいないから安心していいよ」
「本当に?」
「あぁ」
彼がにっこりと微笑んでくれた。
「和真が婚約者を連れてくるって、お爺ちゃんよっぽど嬉しかったのね。つい、ぽろっと言っちゃたみたいなの。悪気があった訳じゃないから許してあげてね」
お婆ちゃんがベージュ色のブランケットを膝の上に掛けてくれた。
「もし足りないものがあったら言ってね。遠慮しなくていいからね」
お婆ちゃんから大きな紙袋を渡された。ずしりと重い。チラッと中を覗き込むと服が一式と値札が付いたままの新しい靴が入っていた。
「ありがとうございます。車椅子だけじゃなく、こんなにたくさん服も頂いてしまって……すみません」
「服は私たちからじゃないわよ。もう隠す必要もないのに。素直に名乗り出ればいいのに。困っちゃうよね。和真」
お婆ちゃんか含み笑いを浮かべた。
彼はすぐにそのひとが誰か気付いたみたいだった。
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