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触れていた唇がちゅっと小さな音を立てて離れた。
濡れた息を溢すと、鼻先の触れそうな距離で彼が微笑んだ。
「やっぱり怖いよな。唇が震えていた」
「そ……そんなことありません」
「無理するな。心も体もきみを求めてやまないとはいえ、怖い思いはもう二度とさせたくない。傷付けたくもないんだ。ほんの少しも。それに四季の心の傷が癒えるまで我慢するって約束しただろう」
言い終えるなりぎゅっと優しく抱き締めてくれた。
「眠くなるまで色々な話しをしよう。眠くなったら眠って、起きたらまた話しをしよう。四季のこともっともっと知りたい。俺のことももっともっと知ってもらいたい。ん?どうした?」
「僕も和真さんと同じことを思っていたんです」
「え?そうなの?」
「はい」
「嬉しいな」
和真さんの目が輝く。
はしゃいだ声に、僕まで嬉しくなった。
和真さんが言ったように、眠くなるまで彼とふたりきり。
ずっと話しをした。子どもの頃のこと、将来のこと、行ってみたい場所のこと……
「毎年7月21日は慰霊祭が近くのお寺で執り行われるんです。僕だけ生き残ってしまって、他の遺族に会わせる顔がないから、いままで参列を断って来たけど、現実から顔を背けずちゃんと向き合うことに決めました」
「俺も婚約者として一緒に行くよ。きみのご両親に挨拶がまだだから、墓前で手を合わせて結婚することを報告したい」
「両親はそのお寺の共同墓地に埋葬されています」
「言いにくいことを教えてくれてありがとう」
ちゅっとおでこに軽い口づけをされた。
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