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いつか、あなたが笑ってくれますように
「和真さんくすぐったい」
「別にくすぐっている訳じゃないんだけどな」
後ろから抱き締められ、項に彼の息が触れるたび身を捩ってずり上がろうとしたら、腰に逞しい腕が回ってきてすぐに引き戻された。
「お婆ちゃんのお手伝いをしなきゃならないから」
「俺の楽しみを奪う気か?」
「別にそういうわけじゃないけど」
言葉に詰まって返答に困っていたら、コンコン。遠慮がちにドアをノックする音が聞こえてきた。
「随分と早いな。朝7時の約束なのに……四季といちゃつかせない気か」
はぁ~と深いため息をつくと、むくっと起き上がり無造作に浴衣を脱ぎはじめた。じょじょに露になる逞しい身体を直視することが出来なくて。頬を真っ赤にしながら慌てて目を逸らした。
「四季も着替えよう。なんなら手伝おうか?」
悪戯っぽくニヤリと笑われた。
「大丈夫です。そのくらい自分で出来ますから。か、和真さん!」
ズボンを脱がされそうになり、手で押さえながらぶんぶんと首を横に振った。
彼に車椅子を押してもらいリビングに向かうと、副島さんは腕を前で組み、眉間に皺を寄せながら憮然とした表情でソファーに腰を下ろしていた。
「手短に説明する」
僕の顔を一瞬だけちらっと見てくれたけど、それ以外は目すら合わせてくれなかった。
大丈夫。和真さんが頭を優しく撫でてくれて。隣にしゃがみこむと、にこりと微笑んで手をぎゅっと握ってくれた。
「靴に盗聴器が仕込まれていた。四季のすぐ身近な人間が黒幕だ。犯人が誰か分かるまで俺は今まで通りお前に冷たく接する。辛くあたるからそのつもりでいろ」
「副島」
彼が声を荒げた。
「言うことが違うだろう?」
「いや、違わない」
「四季にちゃんと事実をありのままに伝えるって約束したはずだ」
副島さんがジロリと鋭い目付きで彼を見つめた。
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