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「夕御飯の前にお風呂に入ってきたら?」
お婆ちゃんに言われてはじめて浴用の椅子や着替えを持ってこなかったことに気付いた。
「何も一緒に入ればいいんじゃないの?」
「いや、その」
急に歯切れが悪くなる彼。
助けを求めるようにちらっと視線を送られ、どうしていいか分からなくて顔を真っ赤にし俯いた。
「ずっと檜風呂に憧れていて、家族で入れるように大きめの湯船にしたんだよ。車椅子で生活している知り合いがいてね、将来私たちも彼みたく介護が必要になるんじゃないか、そう思って脱衣場と浴室は段差がないようにリホームしたんだ。手すりも付いている。車椅子で湯船まで移動してあとは和真に入らせて貰ったらいい。四季くんも普段はシャワーで済ませているんだろう?たまにはゆっくり肩まで浸かって檜風呂を楽しむのもいいと思うよ」
腕捲りをして、山のようなバスタオルを抱えたお爺ちゃんが居間に戻ってきた。
「4枚もあれば濡れないかな?」
車椅子にバスタオルを重ねて敷いてくれた。
「ほら、和真。ぼぉっとしていないで四季くんを風呂に入れてやれ。結婚したら毎日の日課になるんだぞ。予行練習だと思えば恥ずかしくないだろう」
「分かったよ」
前屈みになると、お尻の下に手を差し入れ静かに抱き上げてくれて。車椅子に乗せてくれた。
「お風呂から上がる頃には着替えが届くと思うわ。和真、四季くんを頼むわね」
お婆ちゃんがにこにこ笑いながら手を振って見送ってくれた。
恥ずかしくて顔を上げることが出来なかった。
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