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(キッツイなぁ……っ)
スタッフと共演者への挨拶回りを終え、今日の取り分を財布に詰めライブハウスを後にする。
疲労によるものか背中へ掛かるギターの圧力によるものかは定かではないが、足取りは馬鹿みたいに重い。打ち上げに参加する気力は残っていなかった。
(終わった瞬間あれはマジでねえよ……)
そう。例の曲。投稿サイトでバズったクソみたいなラブソング『Stand By You』を歌い終わったところで、大半の客が帰ってしまったのだ。
まるで「この曲が聴きたいだけでお前自身にはクソほども興味無い」と言われているようで……いやまぁ実際そうなんだろうけれど。
こうも分かりやすく突き付けられると中々にダメージだ。何がいけないんだ、顔出しで活動しているからか? 不細工だからか? 金髪が似合わないのか? 死ぬぞ?
「……ん?」
すぐ近くの八宮駅に向けて歩き出すと。スマホを忙しなくスワイプさせ、何やら必死に文字を打ち込んでいる小柄な人物が目の前に立っている。
黒いパーカー、深く被ったフード。
もしかして……すばるん?
「あの……もしかして、すばるん?」
「……はい。そうですけど」
「うわっ、ビックリした! あの、いっつもライブ来てくれたり、サイトのコメントとか、ホントありがとうございます! どっかでお礼言いたくて……今日もありがとうございます!」
どっちがファンなのか分かったモノではない。差し出した右手を素直に握り返し、素顔を晒さぬまま、すばるんは深々と頷く。
白くて小さな掌……すばるん、こんなに幼い子だったんだ。声はちょっと低いけど間違いなく女の子だよな……こんな子が俺の追っかけなんだ! やっと話が出来た!
「珍しいっすね、いっつもライブ終わったらすぐ帰っちゃうのに。もしかして出待ちとかしてました? すいません、だいたいそのまま打ち上げ行っちゃうんで、そもそも誰も待ってないっすから……」
取り繕いの言葉を前に、すばるんはこれといってリアクションも示さずただジッと握られた手を見つめ続けている。
いやどうなんだろう。フード深く被り過ぎてまったく分からんな……ていうか、どうしたんだ?
「…………シノザキユーマさん」
「は、はい?」
「いつも、応援してます」
「あ、はい。ありがとうござ……」
「いえ……応援してました」
「…………えっ?」
次の瞬間。すばるんは素顔を覆っていたフードをバサッと外して…………えっ? 予想していた数倍は幼い! 高校生……いや、中学生くらいか!?
ん。ちょっと待て。
そうじゃなくて。
すばるん、今なんて?
「ガッカリです……失望しました。売れるためとはいえ、あんな中身スカスカのゴミみたいなラブソング……最悪です、絶望です……ッ!」
「いや、あの、え?」
「まだ間に合います。二度とライブであの曲、歌わないでください。こんな売れ線狙いの駄曲、ユーマさんに相応しくありません……ッ!!」
なんで俺、ロリに説教されてる?
え、なに? え?
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