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初めて言葉を交わした熱狂的追っかけ。通称すばるんは、予想していたよりもずっと幼く、そして可愛らしい美少女だった。
肩に掛からない程度の黒髪ショートカットに、年齢相応の艶やかな瑞々しい真っ白な肌。二次成長期さえ迎えているか怪しい華奢な身体つき。
分かりやすく言うと、ロリ。
控えめに言っても、ロリ。
一方、人並み外れた美貌が霞んで見えるほどには目が半開きで、随分と眠たそうな顔をしているというか。喜怒哀楽を表に出さないタイプと推測される。
だが今日この場に限り、すばるんはメチャクチャ怒っている。溢れ出す感情を必死に抑え込もうと口元をキュッと結び、今にも破裂してしまいそうだ。
「あの……すばるん……?」
「私が好きだったのは、溢れ返る情動を荒々しいギターに乗せた、本能の赴くままに音色を奏でる一匹狼……そういうシノザキユーマだったのです……っ! なのに、なんなんですかあの曲は! 聴いているだけで寒気がして来ますっ……!」
ボロクソである。
確かに例の曲『Stand By You』は自らも認める売れ線狙いの媚び媚びなラブソング、ゴミみたいなバラードだ。
恋愛脳の若い女の子が好んで聞きそうな類のやつ。俺だってこんな曲書きたくなかったし、ましてや人気が出るなんて思ってもみなかった。
「ごめんなさい、ユーマさん……もう着いて行けません。こんなゴミみたいな曲を押し出して活動していくというのなら、私はファンの肩書きを降ろします……」
「ちょちょちょっ、すばるん待っ」
「あの頃のユーマさんの曲と生き様が好きでした……でも、もう帰って来ないんですね……私の憧れたシノザキユーマは死んでしまったのですね……っ!」
「すばるんっ!?」
ガックリと膝を付き項垂れるすばるん。
ごめん、メチャクチャ嘘吐いた。
なにが喜怒哀楽薄そうだよ。
死ぬほど感受性豊かだわこの子。
どうやらすばるんは、今まで歌って来た曲とはまるで方向性の異なる楽曲に心底失望してしまったようだ。それを伝えるため、ついに俺の前へ姿を現したのか。
「待てすばるん! 話を聞いてくれっ!」
「……今の私にはどんな言葉も届きやしません……あんな陳腐な歌詞とメロディーでは、二度と私の心を揺るがすことなど出来ないと、そういうことなのです……っ!」
「だから話聞けって!?」
一心不乱にコンクリートの地面を叩きつけるすばるん。絶対痛いから辞めなって。あと周りの人すっごい見てるの。気付いて。早く気付いて。警察のお世話になっちゃうよオレ。
「俺だって嫌なんだよッ! あんな曲で人気が出るなんて思ってもみなかったんだ! 売れるために、仕方なく書いた曲なんだよ!」
「…………仕方、なく?」
ガバッと顔を上げて、縋るような瞳をこちらへぶつけてくる。そうだ、俺だって同じことを思っている。あんな曲で売れたって……嬉しくもなんともない。
「俺も作りながらゲラゲラ笑っちまうくらいなんだよ……なにが『いつもの喫茶店で待ってるから』だよ……コーヒーとか超苦手なんだよ……ッ!」
「ゆ、ユーマさん……っ」
「『キミはいつも決まってチェックのカーデガン』だぁ……? あんなのなぁ、全部適当に書いた中身すっからかんの……都合の良い歌詞カノン進行に乗せた……誰でも歌えるようなゴミ曲なんだよォォッ!!」
「ユーマさんっ!?」
今度はこちらが地面へと崩れ落ち、いよいよ良い歳した大人がロリに膝を付いて頭を下げる青少年法ギリギリの空間が完成した。
「…………一旦起きますか?」
「……そうだな……」
お互い埃を払い立ち上がる。五月のアスファルトは存在冷たく、謝罪と後悔にはまるで不向きな装いであった。暖かさに釣られて不審者が増えたとしたらそれは間違いなく俺とすばるんだ。きっと。
「すみません、ユーマさんの気持ちも知らずに好き勝手言って……謝ります」
「いや、良いんだ……俺もちょっと甘かったんだよ。どんな形でも俺が売れたら、すばるんも喜んでくれるかなって……そんなわけ無いよな」
「……これから、どうするんですか?」
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