1-1 爆誕☆ロリっ子JCプロデューサー

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「わっ、煙草クサい……いえ、しかし、流石はミュージシャンの暮らしている部屋。この退廃的な雰囲気、良い……逆に良い、転じて尊い……ッ!」  恐ろしいことが起きてしまった。  キャリーケース片手に六畳一間のワンルームへ立ち尽くし、何の変哲もない若者の居住区をキラキラと輝いた瞳でシバキ倒すロリ学生。  昨日のうちにゴミを出しておいてよかった。辛うじて人を招き入れる環境は整っている。とはいえロリに敷居を跨がせる準備は出来ていない。普通に。 「どうやって見つけたんだよ……」 「ユーマさん、分かりやすいのです。ライブもプライベートも全部、八宮駅周辺じゃないですか。ツブヤイターの写真だけで一日の行動はおおよそ推測できます」 「家の写真なんて上げたっけ……?」 「……これです」  お決まり黒パーカーの袖口から手も出さずスマホの画面を突き出す。これは……三年前か。ここに引っ越してきて最初の「新居なう」という呟きだ。写真付きの。 「間取りで特定しました」 「やっべーこの子マジやっべー……」  得意げに鼻を鳴らす。  いや、すばるん。ドヤ顔のところ申し訳ないけど、自宅特定して帰って来るの待ってるって、普通にストーキングと何ら変わりないから。女子学生だからって許されないから。怖すぎるから。昨今無視できない社会問題だから。 「むむっ……これはまさか、伝説のバンド『サドンデス』で活動していた際に使用していたグレッチのギター……っ! お宝っ、お宝なのですっ!」 「ああっ! ちょ、触んなって!」  興奮気味に壁へ立て掛けられていたエレキギターを撫で回す。なにが伝説のバンドだ。一回もライブ出ずに三か月で解散しとるわ。黒歴史ぶり返すな。 「す、すみません。サドンデスに限らずバンドに所属されていた頃は必ずこのギターでしたね。にわか発言、ご容赦ください」 「謝るポイントそこじゃなくない?」  一旦整理しなければ。自宅公開ツアーなんてファンサービスを催した記憶は無い。場末のアイドルだってやらねえよ。生活切り売りし過ぎか。  いくら俺の熱狂的な追っかけだからと言って、自宅を特定して家凸は流石にやり過ぎだ……一昨日に続いて警察案件だぞ。逮捕されるの俺だし。絶対に。 「楽しんでるところ悪いんだけどさ……」 「なるほどっ、普段このパソコンを使って楽曲作りを……むむっ!? これはまさか製作途中の……!」 「だから勝手に触るなって!?」 「のおおおおぉぉォォーーっっ!!」  パソコンにロックを掛けていなかったせいで、途中までメモ帳に書き記していた歌詞をバッチリ見られてしまう。これは不味いと無理やりすばるんを引っ張り上げベッドの上に放り投げる。  見た目通りの軽さだ。マジですばるん、年齢いくつなんだろう。身長だけなら小学生でも通用する幼さだよな……それにしてはちょっとマセ過ぎか? 「頼むから帰れって! ファンを家に上げるのも言語道断だけど、よりによってロリは不味いからッ! 既に底を突いている社会的信頼が地中へ抉れるんだよッ!」 「……ろ、ロリ……っ?」  胸元でプルプル震えるすばるん。  間違ってないだろ。ロリ以外のなんだよ。 「……ろっ、ロリなどではありません! 私は……今宮(イマミヤ)スバルは立派な中学二年生、大人のレディーなのですっ!」 「……ロリじゃん!」 「アダルトです、ヤングアダルトなのです! 転じてペドでもないのです!」  腕を離れベッドから飛び降りると、懐から小さな冊子を取り出し突き付けて来る……生徒手帳か。既に表紙がボロボロだ。こういうの丁寧に扱えよ怒られるぞ。  今宮スバル、永池(ながいけ)第二中学校。生年月日から逆算すると……間違いない、中学二年生だ。いやもう、否定しようの無いロリじゃん。転じずともペドだよ。  まさかすばるんがこんなに幼い中学生で、しかもこれほどアバンギャルドな子だったとは……SNSのリプライとか投稿サイトのコメントあんなに礼儀正しいのに……。 「大人しく帰るわけにはいかないのです……今日からは私は、ユーマさんのプロデューサーなのですから。一番近いところでユーマさんを支え見守る義務があるのです。憲法に書いてあります。ジョンレノンも世界平和と共にそう訴えました」 「もうなに言ってるか全然分かんねえよ……」  どうやら一昨日の「プロデューサーになる」という発言を本気にしているらしい。まさかコイツ、今日一日ずっと居座るつもりなのか。  勘弁してほしい。ただでさえライブもバイトも無くて曲作りにうってつけの快適な一日だというのに。ロリのお守りをしている場合ではないのだ。暇は暇でも潰し方ってモンがあるだろ。 「気持ちは有り難いんだけどよ……もっとこう、アーティストとファンの超えざる一線というか、そういうのを考えて行動した方が……」 「それはつまり、私がこのような行動を取ることで他のファンの皆様にご心配、迷惑を掛けてしまうと?」 「まぁ、うん」 「……私以外にファンがいると?」 「それだけは言っちゃいけねえ……ッ!」  うん。まぁそうなんだよね。  固定のファン、すばるんしか居ないんだわ。  これが現実だ。泣きそう。泣いてる。既に。 「はぁぁぁぁーー…………分かった、分かったよ……まぁ過剰なファンサービスってことで今日は大目に見てやるから。なるべく早めに帰れよ」 「ユーマさん。朝ご飯は食べましたか?」 「話聞け?」 「私もまだなのです。ご飯やパン、コーンフレークの類を用意していただけると、二人分の空腹を満たすことが出来て非常に効率的かと思うのですが」 「喧嘩売ってんのお前?」  噛み合わない。すべてが。  いい加減に叩き出そうかと腹を括ったのも束の間、強めに括り過ぎて虫が鳴り出してしまった。クソ、タイミングが悪い。 「……コーンフレークで良いか?」 「大好物です……!」 「んなもんばっか食ってるからそんな貧相なロリボディーになっちまうんだよ」 「ちょっ……レディーに対して失礼なのです! ミュージシャンである前に人として改めるべきなのです! ちょっとユーマさん! 聞いているのですか!」  ベッドの上でギャーギャー暴れ回っているが、なるべくシーツを乱さないよう気を遣いながらグズっている。余計な配慮だ。そこじゃない躊躇うべきは。  備え付けの小さな冷蔵庫から牛乳を取り出しササッと作り上げる。かく言う俺もあまり強いことは言えない。自炊とか最後にしたのいつだっけな……。 (プロデューサー、ねぇ……)  ナオヤ曰く「自分より自分のことを理解しているファンに頼るのもアリ」とのことだったが……当然のことながら気乗りはしないわけで。  ファンはファン。追っかけは追っかけだ。  そこには越え難い壁が存在する。  あくまでも純粋なファンとして見守って欲しいのであって……内側からヤイヤイ口出しされるのは正直気分が悪い。 「はいよ。スプーン」 「ありがとうございます…………あの、すみません、傍若の限りを尽くしている自覚はあります。分かっていて尚言いますが、優しいんですね。ユーマさん」 「じゃあ帰れって……あと優しいんじゃなくて、諦めが付いただけだから。勘違いすんなよ」 「そういうわけにもいかないのです……ゴールデンウィークの間は友達の家に泊まると言ってしまいました。私は帰る場所が無いのです」 「……はっ?」  慌ててスマホを取り出しカレンダーを確認。って、もうゴールデンウィークじゃねえか、すっかり忘れていた……え? 待って? 確か今年って7連休とかだったよな!? 「そのキャリーケース、まさか……っ」 「いっひゅうかんぶんのきがえれふ……ひばらくおへわになりまふね……」  食べながら喋るな。ちゃん言え。  正しい内容は把握したくもないけど。 「むぐっ……今宮スバル、今日から一週間、ユーマさんのプロデューサー兼カキタレです。そのまま契約延長していただけると非常に有難く。美味しいですねこれ」 「こないだ言いそびれたけどカキタレの意味分かってる?」 「パートナーとほぼ同意義と聞きました」 「違う違う違う」  というわけで。  ロリJCと同居することになった。  駄目だ、現実が追い付かない。一旦寝たい。
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