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いつも見ていた彼女の歌声を聴いたとき、僕に芽生えたのは独占欲だった。
毎朝、通学バスの窓越しに、自転車に乗る横顔を見ていた。ギターを背負い、秋めく風に颯爽と進む彼女は、僕とは違う華やかな世界で輝いているように見えた。
『ハルは枯れてる。絵ばっかりかいてたら、彼女なんか出来ねーぞ』
数日前、友人の理一に呆れ顔で、交友関係に口を出された。
何も言い返さず、笑って誤魔化していると「仕方ないなあ」と、勝手に解釈されてしまい、半ば強引に他校の文化祭に連れ出されてしまった。
―――気になる女子ぐらい、いるよ。
そう言えなかったのは、まだ想いが淡く、自分でもその気持ちをどう扱っていいのか、戸惑っていたからかもしれない。
その彼女が、今、目の前のステージ上で歌っている。
コードを抑える細い指、あめ色のギターは白い腕に弾かれ、音が駆ける。軽快に踊るメロディーは、過ぎる人々を次々と捕まえてゆく。
良く通るハスキーボイスが、心臓をあおり、速度が増す。
軽やかなリズムは耳に。
かすれた切ない声は心に、すっと入り込む。
そして、たやすく僕の中に居場所を作ってしまった。
彼女の右足はリズムを刻み、凛とした笑顔がーーー、
ーーーとても、眩しい。
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