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「あ、私、田邊ナツ。T高校の二年。普段は自転車で通学してるの」
「うん」
知ってるよ、と答えそうになって慌てて口をつぐんだ。
「僕は、林川ハル、同じ高二」
「ハル君」
体温が急に上がる。名前を呼ばれただけなのに、とんでもなく嬉しい。
「ナツさん……」
「同い年なんだから、呼び捨てでもいいよ」
「呼び捨ては……」
ちょっとレベルが高いです。
「じゃあ、なっちゃんで」
「……なっちゃん」
彼女はふわりと口元を緩めた。
その笑顔を描き取りたい、独占したい、と彼女の表情が変わり、声を聞く事で想いが募る。
今まで近づけずにいた時間がとてつもなく勿体無い気さえし始めていた。焦る自分と、どうアプローチしていいのかと悩む自分が足を引っ張り合う。
「もっと、話を聞かせて欲しいんだけど、特にギターの話、とか」
「ギター? いいよ、ギターを始めたきっかけはねぇ……」
バスはかたんと小さく揺れ、右折のウインカーが点滅した。
彼女の声に耳を傾ける。女の子にしては掠れたハスキーボイス。
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