目的は一つ、手段は千

2/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 ―敵は、内にいたのである。  月に100品も新製品を発売する鈴パンだが、営業担当者は人間であり、時間は有限である。100品全てを平等に、均等に、全てを全力で売り先に提案することなどできない。となると必然的に優先順位が発生する。パンメーカーであるので、パンの売上獲得は必須だ。まずはパン、次に市場規模が拡大してきている洋菓子、最後に和菓子である。  パンの中でも部門は細かく分かれていて、大きく言うと食パン、菓子・惣菜パン、フランスパン等を扱うハードパンに区分される。大きく売上を落としそうな部門を見出し、その新製品を重点的に売り出すよう上司から指示を受け、営業部門の担当者は取捨選択して提案へ向かう。  つまり、まずは社内競争を勝ち抜かなければ、ヒットどころか、最低限の売上を確保することすら難しいのである。  こういった背景・土台があって、社内の生産各部の雰囲気は悪い。同じ会社とは思えないほど仲が悪い。情報や技術は極力非公開、他部門を押さえて自分の部門の新商品を売り込んでもらうよう営業への根回し、新規素材を他部門に紹介をしないよう原料メーカーへ圧力をかける。  あの手この手を使って、各部門は自分達の売上確保に必死なのだ。敵は内にいるとは、こういった意味である。    社長は秘密裏に社内の調査を行った。部長達を呼びつけて話を聞いても上辺だけの当たり障りない答えしか返ってこない。それでは本当の状況改善はなされない。そう考え、社内の信頼足る人間数人を調査に駆り出し、実態を探り出したのだ。  そこで生産部の状況が浮き彫りになった。社長はどうしたものかと考え、出した答えが「パン・洋菓子・和菓子部門合同での新商品開発」である。背を向け合ってるなら、向かい合って手を取り合って共に前進しようと考えたのだ。  そのお達しが正式に出され、専務がこれはなんとかせねばと考え、各部門一人ずつ開発部隊から精鋭を出しなさいと指示を受け、至ったのが今である。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!