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秋晴れた空の日は清々しくて、いっその事死にたくなる。
もう僕達は大人だ!って信じてもいたし、だけど本当のところはほとんど何も知らない無邪気な子供だった。
フィクションみたいな毎日を切望していて、どうしようもならない日常に嫌気が差している。
そんな酷く有り触れたとある日に、僕達の安寧たる幸福でしか無かった日々は崩壊した。
屍が街を闊歩して、僕達は生き抜くために武器を手にした。
奪い合いと逃亡、それだけが生きるために必要だった。
今僕の目の前に、冷たくなった歩がいる。
彼のガスマスクをそっと外して、僕は彼の唇にキスを落とした。
いつだって死にたいと嘆いていた僕に君は言う。
『現実逃避は最大の娯楽なんだよ』って。
僕はその言葉が図星だったから、カッとなってそのまま君を抱いたのだっけ。
そんな夜も君はどこまでも僕に甘かった。
優しすぎたんだ、歩は。
『ボクはね、ミノルの為ならいつだって死ねるんだよ』
君がそんなことを言ったから、ほら。
現実になったんだよ。
ちっとも温かくない彼の頬に手を添えて、僕の目尻からそっと涙が零れ落ちた。
ただの屍のせいで、不安と欺瞞が人類を掌握して、何かしらに怯えることが有り触れた日常になってしまった。
空腹と空虚が苛立ちを加速させ、僕達は時折喧嘩をした。
喧嘩をして、もう生きては会えないだろうって気づいて、仲直りをした。
アップグレード出来ないのはいつだって人間の方だった。
歩の身体が急速に腐敗してゆく。
それから、鼓動にすらなれない不規則な脈拍を数度繰り返して、彼の瞼は上がった。
白濁したその瞳に知性はない。
僕の本能が逃げろ!とアラートを鳴らす。
それでも震える身体を叱咤して、僕は彼を抱き締めた。
抱き締めることはまた、彼が僕を抱き締めるということでもあった。
『ボクとミノルのどちらかがね、もしも先に死んでしまったその時は。ただの肉塊同士になって、消えてしまおうよ』
歩はそう言っていた。
僕はそれに賛成した。
会議は満場一致で閉会する。
だから、ほら。
肉塊となった歩が僕の肉片を咀嚼している。
どこまでも熱くて痛くて。
これが愛するということかぁ、と妙に冴えた頭で納得した。
僕達は共に生きた。
だから、共に死ねる権利を得たのだ。
僕は君の手を取った。
君は僕の手を受け入れた。
甘美な夜を過ごしていると朝日が昇って、また今日が来てくれたと笑い合った。
埃だらけの廃墟で迎えた朝は、人生の最高到達点だと思った。
陽の光に照らされる歩の横顔がとても美しいことを確かに僕だけが知っていた。
僕達はたったの2人きりだった。
だから、愛し合えたのかもしれなかった。
そんな依存にも似た感情を持った僕達自身のことも、たぶんきっと愛してた。
細雨がしとしととアスファルトの上に降り注ぐ。
寂れた街灯がちかちかと瞬いて、濡れた夜のアスファルトを浮かび上がらせる。
ふたりは抱き合ったまま、互いを食べた。
後に残ったのは、溶け合ってひとつになった彼等の残骸だけだった。
こうして人類最期の日を迎えた。
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